会長あいさつ

社会福祉はこれでいいのか
会長あいさつ
今後のソーシャルワーカーのあり方に関する提言
日本ソーシャルワーカー協会(Japanese Association of Social Workers 以下JASWと略)は1960年発足以来50余年の歴史と伝統を持つ専門職能団体である。 この間、組織としてのJASWは、様々な事象に遭遇し、色々な試練にも耐えながら紆余曲折を経て、今日に至っている。 特に21世紀に入ってからは、急速なグローバル化による経済、金融、流通、環境、情報、人材等で大きなうねりと変化が繰り返し発生している。 その情勢を反映して世界の各地で民族、宗教、文化、価値観、生活様式などの個性化と多様化が顕著となり、 いわゆるダイバーシティ(diversity)の現象が急ピッチで進み、生活の中に急速にかつ様々な形で浸透しつつある。 こうした動向を反映して、人びとの生活課題(福祉問題)は、多様化、複雑化、複合化、深刻化の様相を一段と強め、 これまでソーシャルワークにおいて共有されてきた仮説や了解事項としての「パラダイム」が危機に直面し、その転換が迫られている。 特に福祉現場に提起されてくる生活問題は、従来の直線的因果論では解決緩和が不可能なものが増加し、 対応の仕方やサービス供給の在り方には、多角化、多元化、総合化が希求されている。 この背景には、上記したようなグローバル化やダイバーシチィ等に加えて、急速に進む少子高齢化、家族形態、規模、機能の著しい変化、 地域社会における支え合い、社会的紐帯、連帯協力の劣化など無縁社会の到来を思わせる事象が頻発している。 こうした状況を受けて、ソーシャルワークは、従来にも増して、機能の強化と拡大が求められるとともに、理論面の強化を図り、 安定した理論を基盤にした「具象化」に不可欠な力量の整備と充実が喫緊の課題となっている。 とりわけ「実践力」「実行力」の基礎となる豊富でかつ高度な専門知識、問題解決に必要な高い水準の技術、 技能など実践に必要な方法、手段など強靭で、粘り強い力量が強く求められている。 しかし、このことは一朝一夕に達成できるものではないが、現下の情勢を考慮すると、慎重にしかし急がねばならない緊急課題である。 そこで、当面JASWとしてやるべき活動事業として以下のような作業がある。
詳細は理事会の総意を得て公表することになっているが、すでにいくつかの素案を提示し、鋭意検討中である。 しかし、一方では、半世紀にわたってJASWが実施してきた事業は継続することになっている。 すなわち、
1)毎年2回行われている社会福祉公開セミナーの開催
2)会報の定期的発行
3)機関誌「ソーシャルワーカーの刊行
4)各地支部などで実施される講演会や講座の開設
5)各種研修会の開催
6)国内諸団体・機関や国際ソーシャルワーカー連盟等との協力、連携
などがそれである。
一方、冒頭に述べたように、今JASWは組織としての存続問題や支部活動の低迷など極めて厳しい状況に置かれている。 そのため、JASWの理事会では、従来の上記した事業を見直し、そのあり方について改革を進め、新しい地平を開拓すべく色々な角度から検討を開始している。 それは本協会の会員が保有している知識、経験、創意工夫、アイディア、開発機能、発見、発明等を通じてソーシャルワークが展開しやすいような環境改善、 条件づくりなど、ソーシャルワーカーのサポーターとして、あるいは強力な応援団を育み、 育成する活動と運動を起こすことを目標とする事業に新天地を開拓しようとするものである。 詳細は別の機会に詳述するとして、今構想している幾つかの事案を提示して皆様の忌憚のないご批判とご教示を賜りたいと考えている。
1)「分かる」、「見える」ソーシャルワークメッセイージの提供
第一には、幼児期から親しめる福祉の絵本や副教材の編集・発行を通じて、 ソーシャルワークの基本的な考えや精神を分かり易く納得いくような内容を兼ね備えたメッセージを発信し、提供する活動である。
近年「分かる」「判る」あるいは可視化を目指す「見える化」のように人間の五感をフルに活用して、認識や理解を深めようとする動向がある。 さらにアニメや漫画、動画、映像を情報技術に乗せて了解できる教材として開発していくことも視野に入れていく必要がある。 幸いJASWはベテランの経験、識見など豊かで高度な知識、技術を保有している会員が多く、いわば知識集約型の組織である。 こうした智恵と創意工夫を結集すれば、この事業は達成可能であると思われる。つまりこれら協会としての智恵と識見を有効に活用すれば、 幼児のみではなく、小学校低学年から高等学校等に至る様々な学力水準に相応する、 教材やメッセージの提供が可能であると確信している。 その意味で、JASWは新たな試みとして、専門職の教育や養成は既存の大学や養成校に任せるにしても、 JASWは新たな地平として、幼児期から高齢者までの幅広い年齢層の人びとへの「思いやり」や「人間としての尊厳」、 「人らしい生き方」などソーシャルワークの根底に流れる考えた思想を分かりやすく、見えるような内容を提供することによって、 ソーシャルワーカーの予備軍、理解者、サポーター、応援団などを育成し、ソーシャルワークの裾野を長期的展望のもとで広げていくことが重要であること考える。
2) 市民ソーシャルワーカーの育成
第二には、いわゆる「市民ソーシャルワーカー」の育成である。 これまでソーシャルワークと言えば、高等教育を修了し、高度な知識、すぐれた技能技術、 高邁な価値観と倫理観の保有者でかつ有資格者であることをイメージしてきた。この方向は今後一層整備充実されなければならないが、 他方では、近年の生活課題の多様化、複合化、深刻化の中で社会的必然としてソーシャルワーク実践の必要が高まり、 ソーシャルワーカーは新たな局面に果敢にかつ積極的に対応していかなくてはならない。 しかし、他方では、こうした専門職に特化したソーシャルワークのみでよいのであろうか。 つまりソーシャルワーカーの諸活動を背後から支え、応援し、可能であれば、ソーシャルワーカーが働き、 活動しやすい環境条件づくり等を担うことができるサポーターとして、別言すれば、ソーシャルワーカーの「黒子」として、 「縁の下の力持ち」としての役割を演じてくれる市民層の裾野を広げていくことが大切である。こうした課題に応えていくためにも市民が納得し、 了解し、分かり、見えるソーシャルワークの内容を提供していく必要があり、必要に応じて標準化されたテキストの編集や啓発、普及が不可避である。 こうした内容が整備され、これらを社会福祉情報として、あるいは福祉のメッセージとして、幅広く発信していく必要を痛感するところである。 今日の高度で先端を行く情報機器を利活用をもってすれば、誰でもがこの種の情報に接し、時空を超越してアクセスできる時代である。 しかも廉価で必要に応じて、オンデマンド方式で学習ができる機会が急速に増え、自由な学習の環境が整いつつある。 このように高度情報社会においては、高度な技術を分かり易く手軽に利活用できるようになりつつあり、 社会福祉業界もこうした動向により敏感に反応するともにこれらの作業が具体的に実行できる実践力の涵養も不可欠である。
3)先端情報技術の利活用
第三には、上記したような事業を展開する場合、従来のような方法ではなく、最先端のIT(情報技術)を利活用して進めていかなくてはならない。 昨今のITをめぐる機器の費用や経費が予想外に減額されており、極端な言い方をすれば、 個人負担おいてでも事業展開をすることができるレベルまで来ているといっても過言ではない。 そこで、例えば、会議は最小限対面的な会合を開催しなければならないが、 一般的な連絡事項や会報等のニュースレター等はインターネットを活用して伝達する方法を採用するのも一つの方法であり、 費用の点から見て極めて廉価で処理することができるというメリットがある。しかし、IT未使用者については、 当然別の方法でサービス提供をしなければならない。また、講演や講座についてもスカイプ(skype)等を利活用して、 全国規模で配信することも可能であるし、著作権の問題や肖像権等の問題も残るが、これらの課題をクリアすれば、配信活動は言うまでもなく、 アーカイブとして記録を蓄積し、ホームページ等に掲載しておけば、オンデマンド方式で、時空を超越した形で情報を入手することが可能な時代になっている。 勿論、会員総会や公開セナーなど人の集いが重要な会議については、従来通り対面的な方法での開催をすれば、すべての会員に容認されるものと考えられる。 また、スーパービジョン等は原則として、対面的な展開が基本であり、理想であるが、上記スカイプ等を利用すれば、双方向性の情報交換として、 音声と映像を映し出すことができる。そのことによって、遠隔送受信を利活用すれば、極端に経費節約に貢献することができる。
 他方、情報化時代においては、大量の情報とりわけ社会福祉情報を集約した形で配信できるとともに収録編集などの技術を駆使すれば、 DVD化やCD化は比較的簡単に作成することができ、また廉価で頒布することも可能である。 さらに最近厚生労働省の助成をえて、地域に存在する社会資源を立体的に制度横断的に利活用できるシステムを開発し、多元、 多層地図を作製することによって、地域における医療、福祉、介護、教育、住宅、生活支援サービス等が居ながらにして点検できる、 いわば「社会福祉ナビゲーター」の試作品を開発した。その事によって、利用者に対してリアルタイムで可視化した情報の提供ができ、 かつ自己選択や決定を促すことができる手段となりつつある。 また、現場におけるソーシャルワーカーの記録をめぐる過重負担が課題となっているが、これも「音声認識方式」を採用することによって、 記録記載の迅速化、記録活用の効率化、共有化等の作業が大幅に促進できるようになりつつある。
 JASWはこのような新しいシステムを現場・臨床に導入させ、啓発、 普及に努めるとともに実践現場において実用化できるように支援活動を展開することも一つの方法である。 このほかにもソーシャルワークの世界に応用し、活用してもらいたい色々な手段、方法など豊富に抱えているが、順次公表していきたいと考えている。
4)当面の課題
上記した一連の構想を具体化するためには、まず財政的な裏づけをしなければならないが、 これらの内容に対して、賛同し、同意してくれる会員並びに会員外の人びとの資金的な支援を求めなくてはならないであろう。 現実の出費多端な折柄を考慮すると、特に会員からの寄付等の拠出に依存するあり方を期待することが難しいであろう。 そこで、公的、私的助成団体への助成申請による外部資金の調達をしなければならない。 もし、ここでも同意や賛同が得られなければ、自主財源調達の道筋を新たに考えなければならにいという状況にある。 一方で、財政問題のみではなく、本協会の会員の意欲、熱意、やる気、思いやり、 支え合うこころなど協会活動を内なる世界から盛り上げる精神面のパワーは、いわばソーシャルキャピタルとして大切にしていかなくてはならない。 さらに会員が保有する知識、経験、創意工夫、アイディア、発見等文字通り協会の「宝」を掘り起こし、活性化し、 システム化することによって、社会的に発信していく方法はそれほど多額の費用を必要とせず、労力と時間さえ、 提供頂ければ、上記した一連の事業の一部は実現可能ものと考えている。 とはいえ、この種の事業は個人水準でやるべきものではなく、大方の善意ある人びとの意欲とご支援を頂くほかないものと考えている。 今後とも絶大なるご協力とご援助を賜りますことを懇願致しています。


日本ソーシャルワーカー協会 会長 岡本 民夫

会長 岡本 民夫